冬子の犬

祖母の部屋の契約を切るとの連絡が入ったとき写真家のきゃんこちゃんに祖母の部屋に来てもらってたくさん写真を撮ってもらった。祖母がいたときのままの生活感マックスの部屋。
扉がずれた仏壇に焦げた線香、ちぎれたカーテンに乱れた寝室。そこに祖母の代わりに眠る私。私の人相は追い詰められた殺し屋のようだったのに、きゃんこちゃんは後にそのときの私についてとても素敵な手紙をくれたのでした。

それから1年たち、またトリエンナーレの延長が決まったとき大量にとってもらった写真のデータを見て祖母の持ち物を描くつもりになった。でもデータは結局、よー開かんかった。まだあの部屋を引っ越した時の様々な出来事がフラッシュバックしそうで全然無理でした。困った私は実家に祖母の持ち物を探しに行き、この犬を連れて帰ってきたのでした。


絵を見た人にあら~わんちゃん~このわんちゃんプードルかしら~などどいわれていたようだけどただの編みぐるみなのです。

思い入れはなくて、むしろ前から見るたびにやばいなこれ…と思っていたのに途中からは「もう君に頼るしかないんよ」となってしまった。


祖母の脳内庭園の守衛としてこれくらい目がいってないとね。このこがいてくれてよかった。乗り切れた。一緒に引っ越そうね。


Maki Kawano

illustration / drawing Ise Mie Japan

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